ヒロシマ・アピールズ 1983
制作コメント
いかなる政治、いかなる思想、いかなる宗教に関係なく、純粋に中立の立場で「ヒロシマ・アピールズ」のポスターを作ることに専念した。しかも、今までたくさん作られた、なんとなく反核的とか、平和ポスターといった「型」にはまった表現ではなく、できれば、かつてなかった角度で反核ポスターを作ることを念願した。
私のアイデアを小さなスケッチにして、優れたイラストレーターである横山明君に渡した。そして私の気持ちを彼に説明して、イラストが出来上がったのが、それから1ヶ月たってからである。私はそのイラストを見て、瞬間、どうも弱いと思った。1日考えて、やはり彼に手を加えてもらうことにした。私の狙いは炎が主役で、美しい蝶はそのおとりなんだということを説明した。
横山君は炎をいじることを恐がったが、思い切って強くしてほしいと頼んだ。
そして2日後に修正して届けてくれた。
多少強くなったが私としては、もう少し迫力がほしかった。本当に蝶は美しく描かれていて、悲愴感が漂う描写力で、私の狙いとぴったりであった。
美しいものが、燃えながら落ちて行き、そして消滅してしまう原爆の不気味さを幻想的に表現することで、逆にリアルな恐怖感を生むという効果を狙った。
その恐怖感を生むためには、ポスターが持つ強い迫力が必要だった。そこで横山君のイラストをトリミングして拡大することと、炎を印刷で強めることで迫力を生んだ。
毎年1人のデザイナーが、ヒロシマのためにポスターを作る。その最初のポスターが、亀倉雄策の手になるということは、本当に責任の重いことであった。
しかし、私としては、かなり満足した出来上がりだと自信を持っている。
「ヒロシマ・アピールズ」ポスターとは
公益社団法人日本グラフィクデザイナー協会(JAGDA)と財団法人広島国際文化財団が1983年、言葉を超えて「ヒロシマの心」を訴えるポスターを共同制作、内外に平和を呼びかけるキャンペーンの構想を発表。同年に第1回作品として、当時JAGDA会長だった故亀倉雄策氏の「燃え落ちる蝶」が発表され、その後8年間、毎年1点ずつ新しいポスターが制作されました。
サイズ:B1(728 x 1,030 mm)