ヒロシマ・アピールズ 1986
制作コメント
今度のポスター作りでは、まず「平和」と相対する世界、たとえば「暴力」「戦争」「核爆発」などを直接表現することを避けようと考えた。なぜなら、それらの現実の光景は種々の映像メディアでいやというほど見せられてきたし、それをポスターのモチーフにするとき、作者によほどの力量がないと感動を生むよりも、むしろ嫌悪感を押しつけることのほうが多いからである。だからといって、「平和」そのものを象徴するユートピア的表現もまたポスターとしての訴求に迫力を欠くうらみがある。
そこで、平和アピールの道具立てとしていちばんポピュラーな子供と鳩を敢えてピックアップすることによって、一瞥でポスターの性格を直観させるとともに、何かプラスアルファーの美的感動を加えることができないか、これが今回の方法になった。それは、半写実的なイラストレーションの効果もさることながら、全体の「デザイン」の力、つまり、画面の構成要素をギリギリ単純にすること、また、背景の地を「紙」そのものの白に還元して一切の筆描を消し去ることによって絵画性から解放すること、言いかえれば、イラストレイティブな要素とデザイン感覚による空間把握という異質な感性をひとつの画面に融合させることによって生まれる「何か新しい効果」に頼ることであった。
「ヒロシマ・アピールズ」ポスターとは
公益社団法人日本グラフィクデザイナー協会(JAGDA)と財団法人広島国際文化財団が1983年、言葉を超えて「ヒロシマの心」を訴えるポスターを共同制作、内外に平和を呼びかけるキャンペーンの構想を発表。同年に第1回作品として、当時JAGDA会長だった故亀倉雄策氏の「燃え落ちる蝶」が発表され、その後8年間、毎年1点ずつ新しいポスターが制作されました。
サイズ:B1(728 x 1,030 mm)